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日刊知的ぐうたら生活

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月別アーカイブ  【 2005年09月 】 

『彼方なる歌に耳を澄ませよ』

アリステア・マクラウドは長編作家である、と私は主張したい。というのも、先に短編集を2冊読み、それから長編の『彼方なる歌に耳を澄ませよ』を読んだところ、収まるべきところに収まるべきものが収まって、やっと落ち着いたという感じがしたからだ。

長編を読みながら、すでにネタ元はわかっているので(短編に書いてあることとほとんど同じだから)、少々飽きてきてもいたのだが、全部通して読んでみると、短編で感じていた不満が長編で解決したのである。

つまり、短編集でバラバラに書かれていたエピソードが、長編では時間の経過と共に整理され、何が誰のエピソードであるのかがわかるようになった。その上で、なるほどそういうことだったのかと納得がいったのだ。そして、短編ではあまり知ることのできなかった兄の存在が、はっきりと見えてきた。

マクラウドの作品のテーマは、すべて大自然の厳しさと一族の歴史といったようなことである。自伝ということでもないので、もとは同じエピソードでも、人や状況を違えて書いてあるのだが、これは短編にあったあの話だなとすぐにわかる。

記憶にあるそうしたいくつものエピソードが、長編で順序良くきちんと並べられ、バラバラのピースがきっちりはまったという感じである。短編では、何か書き足りないのではないかと思っていたのだが、こうしてやっと、マクラウド自身も満足がいったのではないかと思う。

しかし長編とはいえ、ひとつひとつの章は、短編としても通用するようなものだ。おそらくマクラウド自身も、短編のほうが得意であると思っているのだろうが、それを繋げてひとつにまとめたもののほうが、深みも出てきて、より感動的である。彼ら一族の時間の繋がりを描くには、やはり長編のほうがふさわしいように思う。

それにしても、ややこしい話ではある。おじいさん、おばあさんのほかに、おじいちゃん、おばあちゃんがいる。これはおじいさんが言ったことなのか、おじいちゃんが言ったことなのか、訳者でさえも間違えている部分があるくらいだから、読者が混乱するのは無理もない。

女性の名前はあまり重要視されていないようだが、男性の名前は非常に重要だ。父親や祖父の名前を子どもにつけるというのはよくある話だが、小さな島でのことだから、誰も彼も同じ名前だったりして、これは一体どこの誰のこと?ととまどう。

例えば、アレグザンダー・マクドナルドが死に、彼がもらうはずだったシャツを譲り受けたのは、いとこのアレグザンダー・マクドナルドであり、最後にそのシャツを持っていたのは、また別のいとこのアレグザンダー・マクドナルドだったりする。ちなみに、アレグザンダー・マクドナルドとは、アリステア・マクラウドのことであると見ても差しつかえないだろうと思う。

また、クロウン・キャラム・ルーアは一族の有名な先祖であるが、現在では、そこらじゅうにクロウン・キャラム・ルーアがいる。主人公のアレグザンダー・マクドナルドの兄も、キャラムである。「あなたもキャラム・ルーアですか?私もです」といった具合。

主人公が炭鉱で働いているときに、スコットランド人やアイルランド人、フランス系カナダ人などが一緒になって、バイオリンやアコーディオンなどの楽器を演奏し、歌い踊る場面がある。これって、ケイジャン・ミュージックじゃないの?と思い、ちょっと嬉しくなった。

しかし、本の裏表紙に「ユーモア」という文字を見かけたが、私はこの作品にユーモアは全く感じなかった。おじいさんではなく、「おじいちゃん」の言動がおかしいといえばおかしいが、特にユーモアがあるとは思わない。非常に生真面目に書かれており、そこまで書かなくてもいいのにと思うような残酷な場面もある。おそらく、残酷シーンの苦手な人には向かない小説だろう。

この長編で、主人公の兄の存在が見えたと書いたが、この兄の生き様をなぞって初めて、マクラウドの小説の中に、非常に人間らしい感情というものが感じられた。常に自然から受ける運命に身を委ねるしかないような感じであったのが、兄の積極的な感情によって、彼ら一族の中に強さと優しさを感じることができ、それがあることにより、作品が生きてきたように思える。短編では感じられなかったことだ。

そんなわけで、やはりマクラウドは長編のほうがいいと思った次第である。そしてこの長編は、結末は美しいが、とても悲しい。そういう終わり方ができるのも、一族のエピソードを長々と綴り、じっくりと物語を編んできたからこそであると思う。


〓〓〓 BOOK

◆読了した本

『彼方なる歌に耳を澄ませよ』/アリステア・マクラウド (著), 中野 恵津子 (翻訳)
単行本: 343 p ; サイズ(cm): 20
出版社: 新潮社 ; ISBN: 4105900455 ; (2005/02/26)
出版社 / 著者からの内容紹介
なき人々への思いは、今も私たちを突き動かす。18世紀末、スコットランドからカナダ東端の島に、家族と共に渡った男がいた。勇猛果敢で誇り高いハイランダー(スコットランド高地人)の一族の男である。「赤毛のキャラムの子供たち」と呼ばれる彼の子孫は、幾世代を経ようと、流れるその血を忘れない――人が根をもって生きてゆくことの強さ、またそれゆえの哀しみを、大きな時の流れといとしい記憶を交錯させ描いた、感動のサーガ。


◆図書館

『白い果実』/ジェフリー・フォード (著), Jeffrey Ford (原著), 山尾 悠子 (翻訳), 谷垣 暁美 (翻訳), 金原 瑞人 (翻訳)
単行本: 349 p ; サイズ(cm): 19 x 13
出版社: 国書刊行会 ; ISBN: 4336046379 ; (2004/08)

『大地の王の再来(上)ルーンロードⅠ』/デイヴィッド・ファーランド (著), 笠井 道子 (翻訳)
単行本: 427 p ; サイズ(cm): 22
出版社: 角川書店 ; ISBN: 4829175818 ; 1〔上〕 巻 (2005/03/29)
出版社 / 著者からの内容紹介
驚愕のスケールで描く英雄ファンタジー戦記、ついに開幕!全米で600万部の人気ファンタジー小説をついに日本語化。全世界の征服を目指す無敵の超人、世紀末覇王に、若き〈大地の王〉が立ち向かう! しかしその戦いの背後で人類の真の敵が目覚めようとしていた……。

『大地の王の再来(下)ルーンロードⅠ』/デイヴィッド・ファーランド (著), 笠井 道子 (翻訳)
単行本: 395 p ; サイズ(cm): 22
出版社: 角川書店 ; ISBN: 4829175826 ; 1〔下〕 巻 (2005/03/29)
出版社 / 著者からの内容紹介
〈大地の王〉に選ばれた王子が世界を救う……!!
伝説の〈大地の王〉となったグボーン王子は、大王アーテンの魔の手よりからくも脱出した。しかし大王の軍勢は、父オーデン王の持つロングモット要塞に迫っていた……! ハリウッドにて映画化も進行中。

『ローワンと魔法の地図 リンの谷のローワン(1)』/エミリー・ロッダ (著), Emily Rodda (原著), さくま ゆみこ (翻訳), 佐竹 美保 (イラスト)
単行本: 216 p ; サイズ(cm): 21 x 15
出版社: あすなろ書房 ; ISBN: 475152111X ; (2000/08)
内容(「MARC」データベースより)
リンの谷を流れていた水が止まり、川の水しか飲まない家畜のバクシャーは、日に日に弱ってくる。謎を解くため、少年ローワンは水源のある魔の山に向かうが…。スリル溢れる冒険ファンタジー。

『ツバメ号とアマゾン号 アーサー・ランサム全集 (1)』/アーサー・ランサム (著), 岩田 欣三 (翻訳), 神宮 輝夫 (翻訳)
単行本: 487 p ; サイズ(cm): 23
出版社: 岩波書店 ; ISBN: 400115031X ; (1967/06)

『グリーン・ノウの子どもたち 児童図書館・文学の部屋 グリーン・ノウ物語(1)』/L.M.ボストン (著), 亀井 俊介 (翻訳)
単行本: 254 p ; サイズ(cm): 21
出版社: 評論社 ; ISBN: 4566010007 ; (1972/01)
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【 2005/09/13/23/04/59 (Tue) 】 読書と日常 | TB(0) | CM(0)